イジワル婚約者と花嫁契約
「それに佐々木さん、すごく素敵な人だったしね。灯里も気に入ったでしょ?」

「えっ!?」

私が脱いだ着物をしまいながら目を輝かせるお母さんに、とてもじゃないけれど「そんなわけない」とは言えそうになく、ただ笑って誤魔化すしか出来なかった。そんな時、数回ドアをノックする音が響く。

「灯里、今日はお疲れ様」

「お父さん!」

私服に着替えたお父さんが、お母さん同様上機嫌に部屋に入ってきた。

「いやしかし佐々木君は聞いていた以上、想像以上の好青年だったな」

「えぇ、本当に」

そりゃ私だって食事の席での彼しか知らなかったら、素敵だったと同感していた。
けれど彼の本性を知ってしまった今、ふたりに共感することなんて出来ない。

でもここでふたりが揃ったのは好都合かもしれない。
曖昧にしたままが一番よくないよね。
曖昧のままだったら、話しを進められちゃいそうだし。

彼の本性を知らないふたりには、“好青年”として好印象だし、「私にはもったいない相手だから」って理由で断ってもらえるかもしれない。
そう思い、早速お父さんに伝えようとしたものの、先に口を開いたお父さんによって遮られてしまった。
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