イジワル婚約者と花嫁契約
まるで素直になれない子供のようなお礼の言い方に、私と健太郎さんは同時に吹き出し笑ってしまった。

「おいこら!なにを笑っているんだ!灯里まで!」

「だって……!」

よく見れば、田中さんも顔を後ろに向けて声を押し殺すように笑っていた。

少しして落ち着いたのか、健太郎さんは「救うのは当たり前です」と淡々と言い放った。

「それに灯里が倒れた時、お兄さんと一緒にいるところで良かったです。……誰もいないところだったら大変でしたから」

健太郎さん……。

「ではこれで失礼します。あとはご家族でごゆっくり」

呆気にとられるお兄ちゃんに向かって一礼をすると、一瞬意味深な視線を送りそのまま病室から出て行ってしまった。

「私も外でお待ちしておりますので、ごゆっくり」

健太郎さんに続いて田中さんも病室を出て行くと、一瞬にして病室内はシンと静まり返った。
するとお兄ちゃんはゆっくりとこっちに歩み寄ってきて、ベッドの隣にある椅子に腰かけ、心配そうな視線を送ってきた。

「身体は大丈夫か?」

そんなお兄ちゃんを安心させたくて笑顔で頷くと、少しだけ笑みが零れた。
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