イジワル婚約者と花嫁契約
それなら安心だ。さすがに受付業務をひとりでやるなんて大変だもの。

「あまり長居すると疲れるだろうし、そろそろ帰るな」

「あっ、うん。忙しいのに来てくれてありがとう」

立ち上がるお兄ちゃんにそう伝えると、大きな手が乱暴に頭を撫でた。

「なに気を遣っているんだ?家族なんだから当たり前だろ?なのに謝るな」

「……うん」

“家族”
その言葉に何度救われてきただろうか。

「じゃあな」そう言いながらお兄ちゃんは病室を出て行った。

お兄ちゃんは昔からそうだった。
早く私が家に馴染めるように気を遣ってくれて、そのたびに「家族なんだから」と笑顔で言ってくれた。
その一言に何度救われてきただろうか。

さっきまで人が立ち代りいたからか、急にひとりっきりになってしまうと寂しさを感じてしまう。
昨夜は痛みでそんなこと考える暇もなかったけれど、痛みも落ち着いた今、孤独感に襲われてしまった。
家にはいつもお母さんがいたし、一人暮らしもしたことはない。
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