イジワル婚約者と花嫁契約
全て打ち込み終えると、いつも「失礼します」と言って去っていくというのに、なぜか今日は去ることなく話し掛けてきた。

「私、明日から二日間連休をいただいているので、一之瀬さんと会えるのは今日が最後なんです」

「そうなんですか。短い間でしたが、お世話になりました」

どこかホッとしてしまうも、それを表面に出さないよう慌てて頭を下げた。

「いいえ、こちらこそお世話になりました。……佐々木先生の婚約者さんを担当できて光栄でした」

別に深い意味などないと理解しているけど、妙に頭に引っかかる言葉に表情が歪んでしまう。

ダメ、動揺しちゃったら。
別に普通のことじゃない。現に私は健太郎さんの婚約者なのだから。

そう自分に言い聞かせている時、梅沢さんから信じられない言葉が飛び出した。

「あの、最後なんで聞いてもいいですか？」

「――え？」

前振りをすると、にこにこと表情を変えぬまま話を続けた。

「佐々木先生と政略結婚なんてして、一之瀬さんは幸せなんですか？」

ストレートな言葉に、一瞬にして顔が強張ってしまった。
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