イジワル婚約者と花嫁契約
「どうしたい?」と聞いているくせに、お兄ちゃんは私の答えなんてお見通しのようだった。

「健太郎さんに会いたい……」

素直に出た言葉はお兄ちゃんの予想通りだったようで、満足気に笑うと勢いよく立ち上がった。

「そうと決まれば行くぞ!下に田中がスタンバっているんだ」

「――え?田中さんが?」

そう言うとお兄ちゃんは強引に私の腕を掴み立たせると、腕を引いたまま走り出した。

「ちょっ、ちょっとお兄ちゃん!?」

「善は急げだ!」

引かれながらも部屋を出る前に振り返ると、千和さんは笑顔で手を振っていた。
一気に階段を駆け下り、お母さんの呼びかけにも答える暇もなく外に出ると、見覚えのある車が一台、家の前に横づけされていた。
そして強引に後部座席に押し込まれると、運転席に座っていた田中さんを視界が捉える。

「お待ちしておりました灯里さん」

「田中さん……」

バックミラー越しに目が合うと、少しだけ田中さんは目を細め微笑んだ。

「よし田中!佐々木総合病院へ急げ!!」

「もちろんです」

いつの間にか反対側へ回り込み、私の隣に乗り勢いよくドアを閉める。
それを確認すると田中さんは車を発進させた。
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