イジワル婚約者と花嫁契約
第十条『一生涯愛すること』
「代表、到着しました」

その言葉と共に車が停車された視線の先には、つい先日まで入院していた佐々木総合病院がそびえ立っていた。

あれだけ気持ちが昂ぶっていたものの、車に揺られている間少しずつ落ち着きを取り戻し、今では心臓がバクバク言っている。
でもここまで来たんだもの。もう覚悟を決めるんだ。

自分を奮い立だせ、大きく深呼吸をする。

「お兄ちゃん、田中さん。本当にありがとうございました」

ここまで連れてきてくれて。
あとは私が頑張るだけだ。

そんな思いを込めて頭を下げいざ車から降りようとした時、急にお兄ちゃんに腕を掴まれてしまった。

「こら灯里、まだ俺の出番は終わっていないぜ」

「――え?」

振り返り見ると、片方の手でポケットからスマホを取り出し、意味ありげな笑みを浮かべている。

「兄として最後の務めを果たさないとな」

そう言いながらどこかに電話をかけ始めたお兄ちゃん。
少しすると相手と繋がったらしく、大きく息を吸うとお兄ちゃんの怒鳴り声が車内中に響き渡った。
< 263 / 325 >

この作品をシェア

pagetop