イジワル婚約者と花嫁契約
「あっ……!」

メモ帳を視線で追いながら漏れてしまった声。
だけどすぐに千和さんのアップ顔が迫ってきて、言葉を呑み込んだ。

「どうして灯里ちゃんはそんな冷静でいられるの!?一ヵ月ぶりにお兄ちゃんに会えるのに!私なんて、この日をどれほど待ちわびていたか……!」

「え……いや、その……」

「本当にもう羨ましすぎるよ、あんなに素敵な人がお兄ちゃんとか!しかも灯里ちゃんのことすごく大切にしているし」

既に自分の世界へといってしまった千和さん。
どうもお兄ちゃんの話になると、いつもの機転が利いて仕事ができ、気さくな千和さんは崩壊してしまうのだ。
だけどそれは、千和さんに限った話ではない。
この会社に勤める女子社員なら誰もが皆、お兄ちゃんに対して少なからず好意を寄せているのかもしれない。

「出社するのは、夕方からの予定よね」

「はい。両親に挨拶してから出社するって言っていましたから」

基本的に仲が良い我が家。
両親もお兄ちゃんの帰りを待ちわびていた。
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