イジワル婚約者と花嫁契約
「第十条 一生涯愛すること」

そう言うと健太郎さんは表情を崩し、目尻に皺を作って微笑んだ。

「もちろん俺のことを、な」

「健太郎さん……」

「灯里……俺の嫁になってくれる?」

再度放たれた真剣な声色に、自然と涙が溢れてきてしまった。

そんなの、答えなんて決まっている。

「……は、いっ!」

震える声で返事をすれば、健太郎さんは安心したように大きく息を吐き、ギュッと私を抱き寄せた。

「もう絶対昔のようになにがあっても離してやらないからな。……そのかわり約束通り、世界で一番幸せにしてやる」

次々に涙が溢れて言葉が出ず、何度も頷いた。

パパとママが亡くなって辛くて悲しかった。
思い出せないほど消したい記憶だった。……でもただ辛くて悲しいだけじゃなかったんだ。
健太郎さんとの素敵な出会いもあったんだ。

今なら少しずつ思い出せる。
パパとママ、三人で過ごした幸せな日々を――。

そして健太郎さんが私を救ってくれた、あの愛しい言葉も――……。
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