イジワル婚約者と花嫁契約
こっちは必死に抵抗しているというのに、お兄ちゃんはがっちり私の身体を抱きしめて離さない。

「代表だなんて水臭い!お兄ちゃんと呼びなさい!それよりも酷いじゃないか!一ヵ月ぶりに会うというのに、家で待っていてくれないなんて!」

「だって仕事が―……!」

正論なことを言おうとしたものの、すぐに遮られ身体を離された。

「そんなの一緒に出勤すればいいだけの話だろ?時間に間に合うように早く帰ってきたというのに」

悔しそうに表情を歪めながら、涙目になっている。
相変わらずなお兄ちゃんに、苦笑いしか浮かばない。

「元気だったか?なにか変わったことはなかったか?」

「なっ、ないよなにも」

一瞬彼の顔が浮かんでしまったものの、慌てて平然を装う。

「そうか、ならよかった」

久し振りに顔を見て浮かれているのか、お兄ちゃんはそんな些細な私の変化には気付いていない様子。
すると秘書の方に「代表」と声を掛けられ、名残惜しそうにしながらもお兄ちゃんはオフィスへと入っていった。

「相変わらずねぇ、溺愛っぷりは」

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