イジワル婚約者と花嫁契約
過去の話に、つい笑ってしまうと健太郎さんは大きく咳払いをした。

「俺を幸せにしてくれるならさ、まずは灯里が幸せを感じてくれない?……それが俺にとっての幸せでもあるからさ」

「健太郎さん」

「それだけで俺は十分幸せだよ」

頭を撫でる優しい手――。
あまりに手のぬくもりが優しくてまた涙が溢れてくる。

「私、もう充分幸せです」

こうやって健太郎さんのぬくもりを感じていられるだけで、充分幸せ。

「本当にバカだな、灯里は」

バカだななんて罵られているのに、言葉に愛情を感じてしまうのは私だけかな?

「バカでもいいです。本当に幸せですから」

なんて言われようと、健太郎さんとこうやって一緒にいられるだけで私は幸せなんだ。

頭を撫でていた手は離れ、ゆっくりと離される身体。
顔を上げれば、甘い瞳で見つめる健太郎さんと目が合う。
それだけで嬉しくて、胸が鳴る。

「俺も幸せだよ」

そっと囁くと、大きな手が頬に触れ、ゆっくりと近づく距離。

「私も」

最後にそう呟き、瞼を閉じた瞬間、急に背後から口元を覆われてしまった。
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