イジワル婚約者と花嫁契約
「貴様どさくさに紛れてなにしてるんだ!」

そしてすぐに背後から聞こえてきた声に、目を見張る。
もちろん突然現れたお兄ちゃんに健太郎さんも驚きを隠せず、固まってしまっていた。

「まったく油断も隙もない!いいか!俺の目の前で二度とキスなんてさせないからな!つーかさせてたまるか!!」

吐き捨てるように言うとお兄ちゃんは無理矢理私を立たせた。

「ちょっ、ちょっとお兄ちゃん!?」

「もう時間だ。約束通り灯里は返してもらうからな」

お兄ちゃんから離れようと試みるも、とてもじゃないけれど私の力では勝てない。
すると健太郎さんも立ち上がり、なぜかニコニコと笑いながらお兄ちゃんを見据えた。

「なっ、なんだ急に!」

さすがのお兄ちゃんも動揺し、声を裏返させた。

「いいですよ、お約束でしたし灯里はお返しします」

「は?」

身構えていたお兄ちゃんはすっかり気が抜けた声を漏らした。

「灯里とは話できましたし、それにお兄さんが灯里と過ごせる少ない時間を奪いたくありませんので」

「なにっ!?」

「だってそうでしょう?いずれ俺と灯里が結婚したら、俺が灯里と一緒に住むんですから。今の立場も逆転します」
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