イジワル婚約者と花嫁契約
ニコニコ笑顔で淡々と述べる健太郎さんとは違い、次第にお兄ちゃんの身体は怒りからか、プルプルと震えだした。

「貴様言わせておけば……!」

「全て本当のことですから」

ピシャリと言い捨てると、急に健太郎さんと目が合ったと思た瞬間、腕を掴まれ引き寄せられた。

「またな、灯里。……愛してるよ」

「――え?」

不意に落とされたキスに、目が真ん丸状態になってしまう。
すぐに唇が離されると、何事もなかったように腕も離してくれた。

え……と今、健太郎さんお兄ちゃんの前でキス、したよね?
それにあっ、『愛している』って言った!?

唖然とする私に健太郎さんはしてやったりと言いたそうに、笑顔を振りまく。

「抜けてきてるんだ、俺もそろそろ戻らないと。……どうぞお気をつけてお帰り下さい、お兄さん」

立ち尽くすお兄ちゃんに丁寧に一礼すると、再度私に手を振りそのまま健太郎さんは病院のほうへ戻っていく。
その背中を見つめながら、私の頭の中はさっきの健太郎さんの言葉で埋め尽くされていた。
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