イジワル婚約者と花嫁契約
げんなりとした声で話す健太郎さんには悪いと思いつつも、つい数日前、我が家に挨拶に来てくれた時のことを思い出すと笑わずにはいられなかった。

「すみません、お兄ちゃんがあんなで」

「本当だよ。……だけどまぁ、灯里を大切に想う気持ちは同じだからな。きっといつかは認めてくれると信じているよ」

「……はい!」

大丈夫。
きっとお兄ちゃんは近い未来、健太郎さんのことを認めてくれるはず。
ううん、むしろ本当の兄弟のように仲良くなっちゃうかもしれない。
やっぱりふたりには似ている部分が沢山あるから。


「灯里……好きだよ」

「なんですか、急に!」

照れ臭くて可愛くないことを言うと、健太郎さんはまた可笑しそうに笑うばかり。

「いや?とくに意味はないけど、ただ急に伝えたくなっただけ。灯里だってあるだろ?そういう時が」

そんなの沢山ある。
無性に抱き着きたくなる時とか、会いたくなる時とか、声が聞きたくなる時とか。
健太郎さんの言うように「好き」って伝えたくなる時とか。
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