イジワル婚約者と花嫁契約
だから灯里を好きになる男の気持ちは痛いほど分かる。……が!
そんな灯里を易々と兄として渡すわけにはいかない。

「灯里に似合う男は俺が決める」

昔から決めていたことだ。俺以上に灯里のことを大切に想ってくれていて、俺以上にデキる男でないと灯里は渡せないと。

なのに田中はわざとらしく運転しながら大きな溜息を漏らした。

「灯里さんにとったら大迷惑でしかありませんよ?」

ボソッと囁かれた声は狭い車内にいる俺の耳には充分届く距離だった。

「おいこら、それはどういう意味だ?」

「そのままの意味です。代表がこうやって頻繁に学校にいらしたら灯里さんにとっては迷惑以外なにものでもありませんよ?灯里さんに言われていませんか?」

「べっ、別にそんなことは……!」

口がどもってしまう。
まさに田中の言う通りだったから。

俺はただ心配しているだけなのに、灯里は「そんな心配必要ないよ」の一点張りで、顔が迷惑だと物語っていた。
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