イジワル婚約者と花嫁契約
そもそもお見合いもメールも全て望んでいたことじゃない。
私は恋愛結婚したいし、その相手はあんなハイスペックで二重人格な人じゃない。
普通の人でいいんだ。一緒にいて安らげて、いつまでも仲良く暮らせる人で。

最近どうも流されちゃっているところがあるよね、私。
完全に佐々木さんのペースだ。
だから絶対に名前でなんて呼ばせないし、呼ばないんだから。

そう自分に強く言い聞かせ、午後の勤務へと向かった。


「いっ、一之瀬さん!助けて下さい!!」

受付業務の傍ら、事務書類の整理をしている時だった。
オフィスのドアが開くと同時に、開発部の人が涙目で助けを求めてきたのは。

「どうしたんですか?」

驚きつつも、なんとなく予想できてしまう。
それは千和さんも同じだったようで、目が合った。

「代表の機嫌取ってきてくれないかな!?」

切羽詰まったように悲願される。これは初めてではない。

「お願い!」

顔の前で両手を合されてしまっては、毎回NOとは言えない。
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