イジワル婚約者と花嫁契約
今はちょっと違う、と思う。

恋愛経験浅いし、付き合った経験なんてない。
でも人を好きになる感情だけは、ちゃんと分かっている。

バレないよう運転する健太郎さんの横顔を盗み見る。
少しだけ口角を上げて笑いながらも、真剣な面持ちで運転する姿にまた胸が締め付けられる。

だめだこれ。
完全にやばい。

慌てて視線を前に戻し、心臓を落ち着かせる。

「あのさ、そろそろ着くけど俺は話さなくていいの?」

「え……話す?」

突然聞かれドキッとしつつ、健太郎さんがなにを言っているのか分からず、首を傾げてしまう。
すると健太郎さんはハザードを点け、路肩に車を停車させた。
よく見ると見慣れた風景で家の近所だった。

「なに?しつこいほど聞いてきたくせに、寿司食べたら忘れちゃったのか?……俺が灯里と結婚したい理由」

「あっ……!」

そうだった。
なんですっかり忘れてしまっていたんだろう。今日一番の目的を。
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