イジワル婚約者と花嫁契約
「お望みなら家に着く前に話すけど?」

その声に隣を見れば、健太郎さんは余裕たっぷりに笑いながら、ハンドルに体重を預けて私を見つめていた。
なんてことない仕草にも、いちいち反応してしまう自分を憎く思うも、必死に平然を装った。

「じゃあ話して下さい!」

照れを隠すように冷めた口調で言うと、健太郎さんは我慢できなくなったように吹き出した。

「なに?灯里は今ツンデレがマイブーム中なの?」

「なっ!なに言ってるんですか!意味が分かりません!」

「そのままの意味だよ。素直に聞きたいって言えばいいのに」

「……っ!」

ひとつ付け忘れていた。
健太郎さんは意地悪な人だ。

「健太郎さんこそ普通に話してくれればいいじゃないですか!……意地悪な人ですね」

「それは最高の褒め言葉だね」

悔しくて嫌味たっぷりで言ったというのに、なぜか嬉しそうに笑う。

「じゃあ普通に話してあげる。理由は単純だよ。俺は灯里のこと気に入っている。だから結婚したい」

「え――?」

次の瞬間、不意に掴まれた手。





< 85 / 325 >

この作品をシェア

pagetop