イジワル婚約者と花嫁契約
「健太郎さ――……」

咄嗟に振りほどこうとしたものの、さらに強い力で腕を掴まれる。

「灯里は?」

「え?」

シートベルトを外し、健太郎さんはゆっくりと近づいてくる。
近付く距離と比例するように、緊張も加速していく。

近付かれたらドキドキしているのがバレそう。
だから近づかないでほしいのに、何も言えない。
ドキドキし過ぎて苦しい。

少しずつ縮まっていく距離間。
数センチのところで止まり、健太郎さんの瞳は私の瞳を捉えて離さない。
まるで私の真意を探るかのように、真剣な面持ちで見つめてくる。

「灯里は俺と結婚したいって思ってくれている……?」

「結婚……ですか?」

「そう」

結婚……私と健太郎さんが?
でも結婚って好きな人同士がするものでしょ?
健太郎さんはさっき、確かに私のことを気に入っていると言ってくれた。
だけどそれって“好き”と結びつくの?
それより私は……?
私は今目の前にいるこの人のこと、結婚したいと思うほど好きなのだろうか?

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