イジワル婚約者と花嫁契約
「灯里……?」

囁かれた掠れた声。
その声色が妙に色っぽくてドキッとさせられてしまう。

なにか言わなくちゃって分かっているのに、言葉が思い浮かばない。
なんて答えたらいいのか分からないよ。

健太郎さんのこと、嫌いじゃないと思う。
だって一緒にいるだけでドキドキしちゃうし。

上手く言葉にできないことを頭の中で言い訳していると、「じゃあ……」と聞こえてきた声。

顔を上げれば健太郎さんの顔が、先ほどとは比べ物にならないほど近くにあって固まってしまう。

「嫌だったら拒否して」

「……っ!」

ちょっと待って。これって……!

整った顔がゆっくりと近づいてくる。

急な展開に頭がついていけない。
瞬きすることも出来ず、近づいてくる健太郎さんの顔を凝視するばかり。

どうしたらいいの?私……このままじゃ健太郎さんとキスしちゃう。

“嫌だったら拒否して”

テンパる状況下、さっきの健太郎さんの言葉が頭をよぎる。

そうだよ、嫌だったら拒否すればいいだけだ。
そう分かっているのに、どうして……?
どうして「嫌です」って言えないの?顔を背けることが出来ないの?
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