イジワル婚約者と花嫁契約
その間にも近づいてくる健太郎さんの唇。

自分のことなのに分からない。
でも私、嫌じゃないんだ。健太郎さんにキスされるの、嫌だって思えない――。

あと少しで唇が触れてしまいそうなところで、思わず目をギュッと瞑った。

まさかこんなシュチュエーションでファーストキスを経験するなんて思わなかったけれど、相手が健太郎さんならいいのかもしれない。
だってやっぱり私、きっと彼に惹かれているから――……。

曖昧だった気持ちが、こんな状況に陥って確信へと変わるなんて……。

覚悟を決めジッと瞼を閉じたまま待つものの、一向にその瞬間は訪れない。

あっ、あれ……?

不思議に思い瞼を開けようとした時、額に大きな手が触れ髪を上げられた瞬間、柔らかくて温かな感触が触れすぐに離れていった。

「――え?」

目を開ければ、私の前髪を上げたまま微笑む健太郎さんと目が合う。

「今日はこれで許す。……どうやら灯里も俺と結婚してもいいと思っているようだしな」

「なっ……!」

満足気に笑うと、健太郎さんは運転席に戻っていく。
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