イジワル婚約者と花嫁契約
「だから今日はさっきので勘弁してやるよ」

伸びてきた大きな手は、乱暴に髪を乱した。

「なにするんですか!」

「なにって、愛情表現だけど?」

「愛情表現って……!」

慌てて髪の乱れを直す。

「これからいくらでも時間はあるしな。ゆっくりでいいから俺のこと好きになってよ」

「……っ!」

「俺も愛情たっぷり注いでやるから」

だめだもう。
完全に健太郎さんのペースだ。
悪いけど、ゆっくり好きになんてなれそうにない。

「まずは本気の笑顔を見せてもらわないとな」

「本気の笑顔?」

「あぁ。だって灯里、まだ一度も俺の前で笑ってくれたことないだろ?嫁の笑顔見ないことにはなにもできねぇよ」

どうしてそんなこと言うのだろう。
そんなこと言われたら、本気にしてしまいそうだ。
健太郎さんは本当に私のことを気に入ってくれていて、結婚したいと思ってくれていると。
……本気でそう思ってもいいの?

トクントクンと高鳴り出す鼓動。
聞きたい願望が膨れ上がり、我慢できず問いかけた。

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