イジワル婚約者と花嫁契約
だけどすぐに目は離され、「気になさらないで下さい」とピシャリと言い捨てられた。

「そうだぞ灯里!気にしなくていいからな!」

お兄ちゃんはそう言うけれど……素直に頷くことができない。
私はどうも昔から田中さんのことが苦手だった。
だって全然笑わないし、感情を表に出さない人だし……。

そういう人だって割り切ればいいのかもしれないけれど、どうも簡単に割り切ることができないんだよね。

チラッと隣に座るお兄ちゃんを見れば、田中さんの言う通り上機嫌で書類に目を通している。

そうだ、肝心なことを忘れていた。

いつもは乗らないはずの車に乗ってまで、お兄ちゃんに聞きたいことがあったんだ。

「あのさ、お兄ちゃん」

「んー?なんだ」

書類の文字を目で追うお兄ちゃんに、思い切って聞いてみた。

「あの、さ……昨日はだいぶ遅かったけど、その……千和さんとはどうだったの?」

お兄ちゃんは私が帰ってきた時には、まだ家にいなかった。
ってことはそんな遅くまでお兄ちゃんは、千和さんと一緒だったってことでしょ?
そうなるとやっぱり気になってしまう。
もしかしたらふたりに何か大きな進展があったんじゃないかって。
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