寂しがりヒーロー
仁太くんの動きは速くて、僕は一瞬怯んだ。
だけど、慌てて避ける。


「...ビックリした顔してるな。俺をそんなに弱く見積もってたのか」


...正直、仁太くんの言う通りだった。
ここまで速い拳を、僕は受けたことがなかった。


「...ごめん」


僕は素直に謝り、仁太くんを殴ろうとする。
けれど、それを仁太くんは避けた。

初めてかもしれない。
こんなに軽々と避けられたのは。


「やっぱ他の奴らよりはえぇな、伊月は」

「...ありがと」


そんな会話をしながらも、僕らは殴ろうとする。


「いったぁ...」


始めに殴られたのは、僕。
仁太くんの攻撃の威力は強い。
だから、僕なんてすぐに倒れてしまう。


「...伊月の本気ってこんくらいなのか?案外弱いな」


そう言われても、言い返せない。
僕は弱いんだから。
それから何度も殴られる。
その度に倒れて、殴られた場所を押さえてフラフラ立ち上がる。

でも、仁太くんの一言が、僕を目覚めさせてくれた。


「あの女のこと、早く助けてやれよ」


...そうだ。
僕は、カモちゃんを助けなきゃいけないんだ。

確かに、噂通り仁太くんは強い。

だけど、ここで負けるわけにはいかない。
カモちゃんを、助けるために。
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