寂しがりヒーロー
「...づ...い...伊月!」

「へっ!?」

「ったくもう、ボーっとしちゃって、どうしたの?」

「あ、いや...」


教室に帰ってからも、僕はそのことばかり考えていて、カモちゃんの話を聞き流してしまっていた。


「ごめん、何?」

「仁太くんのことだよ」

「えっ、仁太くんがどうかしたの?」

「いや、喧嘩でもしたのかなぁって。伊月、あんまり人と喧嘩しないから、なんか心配っていうかさ」

「...全然。大丈夫だよ。ちょっとだけ言い合いになってただけ」


...嘘つき、なのかな。
やっぱり僕は、カモちゃんに隠し事をして。


「そっか。でも珍しいよね、伊月が言い合いするなんて。いい友達が出来たのかな?」


その言葉を、カモちゃんは何の疑いもなく信じて。


「ねぇ、カモちゃん」

「んー?どうしたの?」

「...嘘ってさ、ついていいと思う?」


つい、そんな言葉を言って、僕は後悔をした。
決まってるじゃん。
こんなこと聞いて、わざわざ自分から落ち込まなくてもいいのに...。


「んー...どうなんだろう。それって結構難しいよね」


カモちゃんは悩み始める。
すっごく意外だった。
「ダメに決まってるじゃん!」って言うと思ったのに。


「優しい嘘って、よく言うけどさ、優しい嘘をつかれる方は、悲しいかもしれないけど、楽だよね。辛いことを知らなくていい。だけど、優しい嘘をついてる人は、苦しいんじゃないかなーって思うんだよね」

「苦しい?」

「うん。嘘をついてる人は、自分一人でその苦しみを抱え込まなきゃいけないからね」

「そ、っか」


...一瞬。
一瞬だけ、思ったんだ。
僕は、優しい嘘をついているんじゃないかって。

でも、分かってる。
これは、自分のための嘘。

自分が苦しい思いをしている可哀想なヤツだと思いたいなんて、なんて最低なヤツなんだろう。
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