寂しがりヒーロー
「あっれぇ?何何?キレてんの?」

「...キレてますよ...僕は...あんた達を許さない!」


僕はそう言って、相手の方に走り出す。
みんなを助けたい、守りたい。
ただ、その感情だけが、僕を突き動かす。


「うわっ」

「なっ、なんだよ、コイツ!」

「動き、速すぎるだろ...」


その中の一人を思いきり殴り、相手の拳をかわす。
その動作に周りが怯んでいる間に、僕は後ろに回って蹴りを入れる。

でも、相手は数が多い。
一気に囲まれて、殴られる。


「んー!んー!」


後ろから、口を縛られているカモちゃんの声。
それだけでも、僕の怒りは増していく。


「チビのクセに調子のってんじゃねーぞ!」

「...っ、それは...こっちのセリフだ...!」


僕は殴られ、蹴られながらも思いきり殴ることを止めない。
負けたりなんか、したくない...。


「ふざっけんな...っ」


僕は相手に蹴り倒される。
でも、そんなの気にならないくらい、怒りが勝っていた。


...それから、何があったのか、僕ははっきり覚えていなかった。

いつの間にか、周りの人達が倒れていて、僕はその中心に突っ立っていて。


「んー!」


その声に、僕はハッと我に帰る。

仁太くんの声だ。
僕は仁太くんの元に駆け寄り、縄をほどいた。


「...っはぁ、助かった、ありがとな、伊月」

「...ううん。この前助けてもらったから、おあいこ」


そんな会話を交わして、次はカモちゃんの縄をほどく。


「...カモちゃん、怪我、ない?」


でも、返事は返ってこない。
暫くして、カモちゃんは口を開いた。


「い、づき...さっきの...」

「えっ?」


そこまで言って、気づいた。

...僕は、何をしちゃったんだろう。

カモちゃんの前で、大勢の大人を殴り倒すなんて。


「おい!伊月!?」


気づけば、僕は逃げ出していた。
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