雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「甘茶には厄災を洗い流す力があってな、燻して家の周りに撒いて魔除けの結界として使われることがあるんじゃ。
家に張っている結界も、それにわしの術を練りこんだものを使っている。
この匂い袋にも、甘茶の粉末を入れてあるぞ。
そのついでに飲み物も甘茶にかえておいたんだが、それが功を奏したようじゃな」
「……傷が痛くなったのは、あたしが飲んだ甘茶の力が働いたから?」
思葉が首を傾げると、玖皎がぱたぱたと鬱陶しそうに手を振った。
「そう考えるのが、いちばん筋が通っているな。
まったく、おまえは一体どこまで見透かしているんだ……」
「ははは、そう褒めてくれるな。
しかしだな玖皎、わしは預言者ではないぞ。
ただ、こちらの道にほんの少し腕に覚えのある、しがない爺だ」
「褒めていない、おまえのような爺がいてたまるか。
初対面のときといい種明かしのときといい、おまえは本当にとんだ狸だな。
人間ではなく化生として生まれた方が似合っていたんじゃないのか?」
「おお、付喪神のなかでも相当な力をもつおまえさんにそう言わせられるとは、わしもまだまだ引退するにはいかんかのう」
(……玖皎が、遊ばれてる)
苦々しい表情で床を睨みつける玖皎と、笑いながらそんな彼を見下ろしている永近。
気が遠くなるような年月を生きているはずの妖刀をからかう祖父を、思葉は半ば唖然として見つめた。