雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
永近は匂い袋を開けて中を見ると、そのまま握ってドアに向かった。
開けながら思葉を振り向く。
「とりあえず、この中身はもう使い物にはならん。
また明日新しく用意してやるぞ。
ああ、念のためそれは全部飲んでおきなさい。
詳しい話はまた飯のときにでもしよう」
「はぁい」
永近の足音が軽快に階段を降りていく。
それを聞き届けてから思葉は立ち上がり、倒したままにしていた全身鏡を直した。
制服から部屋着に着替え、椅子に腰かけて甘茶を飲む。
その間、玖皎は苦虫を十も二十もかみつぶしたような顔を崩さなかった。
思葉は水筒から口を離して苦笑する。
「玖皎、すっごい顔になってるよ。イケメンぶち壊し」
「うるさい、100も生きていない若造に生意気言われて、面白いわけがなかろう」
(あ、そっか。玖皎にしてみればおじいちゃんなんてまだまだ若いんだ……)
どうにも、彼との年齢の感覚が噛み合わなくてぴんと来ない。
玖皎は低く唸りながら、絹のようにきれいな長い髪をかきむしった。
姿勢も相まってかなり行儀が悪い、ますます美男子が台無しである。
だが、その手が急にぴたりと止まった。
「……そうか、永近のやつ、誰かに似ていると思ったら晴明に似ているんだな。
くそっ、離れて1000年経って、またあいつによく似た爺に捕まるとは、一体どんな因果なんだこれは」