雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
晴明とは、平安時代の陰陽師として名高い安倍晴明のことである。
護り刀となり琴の護衛に付く前、玖皎は彼の式として長い間行動を共にしていたのだ。
話を聞く限りだと、かなりユニークで茶目っ気の多い人物という印象を抱いた。
玖皎がかなり悪く言うので、そういう風に考えないよう努めた結果の印象であるのかもしれないが。
「そんなに似ているの?おじいちゃんと安倍晴明って」
「ああ、似ている、皮肉の混ぜ方が特にな、うっかりあいつと錯覚して『おい、晴明』と呼んでしまいそうだ」
「でもおじいちゃん、安倍晴明より力はないんでしょ?
だったら流石に間違えないんじゃない?」
思葉は笑いながら、以前玖皎が言っていたことをそのまま口にした。
日本人なら名前を聞いたことはないくらいの、歴史上の有名人物と祖父を比較するのもなんだか変な感覚でかえっておもしろく感じる。
それも、1000年前の平安京で生きていた彼を知る妖怪がそばにいるからだろう。
だが当の本人は笑わず、難しそうに腕組みして首をかしげ、うーむと唸り始めた。
「……霊力も呪力も晴明には及ばないが、その前に永近は晴明よりも長く生きているから正確なところは分からん。
しかも、あいつは人間の割に隠すのが上手い。
おれに本領を測らせないようにしているかもしれんしな。
まったく、人の世には敵を欺くにはまず味方からということわざがあるが、あれは明らかに楽しんでいる分の方が大きかったはずだ」
(――あ。これ絶対に騙されたことまだ根に持ってる)