雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
――目が覚めた。
けたたましいアラームの音が部屋に響いている。
いつもならうるさくてすぐに止めに行くのに、今日は動けなかった。
ベッドにうつ伏せになったまま音を聞く。
妙に身体がだるく重たかった。
「おい、いつまで鳴らしているんだ」
うるさい、と玖皎が不機嫌に言って枕元の目覚まし時計を叩く。
遠慮ない力だったのか、ミシッと嫌な音が聞こえた。
アラームが鳴り止み、早朝だけの、澄んだ静けさが広がる。
テレビをつけているのだろう、1階からアナウンサーの声が聞こえてきた。
表通りを車のエンジン音が通り過ぎていく。
「思葉、まだ眠っているのか?」
玖皎が肩をゆすりながら、半眼になっている思葉の顔を覗き込んでくる。
そこでようやく、思葉はのそのそと布団から出た。
「……はよ」
「おはよう、どうした?今日はいつになく目覚めが悪いな」
「ん……」
思葉は目をこすり、あくびをしてしっちゃかめっちゃかになっている髪を掻いた。
玖皎の言う通り、今日の寝起きは酷い。
ここまで眠気とだるさがからみついてくるのは珍しかった。
のんびりしている場合ではない。
思葉は首を振って両頬を叩き、何度も瞬きをしてTシャツを脱いだ。
奇妙な短い声を発して玖皎が姿を消す。
ここに玖皎を置くようになってから部屋で着替えをすると文句を言われたが、最近は着替え始めると刀に戻り見ないでいてくれるようになった。
制服に着替え終え、またあくびをしつつ階段を降りる。
卵焼きのおいしそうな匂いが漂っていた。