雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「おはよう」
「おはよう、今日はいつもよりおそ……酷い顔だな、早く洗ってきなさい」
永近が言いながら思葉を振り返り、孫娘の姿を見て苦笑した。
そんなに酷い状態なのかとぼんやり考えながら洗面所に向かい、鏡を見てなるほどと納得した。
確かにこれは文字通り『酷い顔』である。
顔を洗い、朝食を胃に収め、歯を磨いたところでやっと身体も頭もしゃっきりとした。
普段の調子になるのにここまで時間がかかるのも珍しい。
甘茶の入った水筒と中身を新しく強力なものに替えた匂い袋、それとお弁当を抱えて部屋に戻る。
玖皎はベッドによりかかって窓の外をぼんやりと見ていた様子だったが、思葉がドアを開くとこちらに顔を向けた。
「目、覚めたか?」
「うん、もうばっちり」
親指と人差し指で輪をつくってみせる。
玖皎は小さく頷くと、肩にかかる長い白い髪をいじり始めた。
うっかり見とれてしまいそうになり、思葉は慌てて視線を背ける。
顔立ちがきれいな人は何をしても絵になるとよく聞くが、それはこういうことなのだなとこっそり思った。
床に転がしていた通学鞄を学習机に置き、お弁当と水筒をしまいながら忘れ物がないか確認する。
1時間目から苦手な数学があることを思い出して、やや気持ちが沈んだ。
全身鏡の前に移動し、昨日と同じように首に匂い袋をかけ、制服を整える。
櫛で髪をとかしていると、ふいに目を覚ますまで見ていた夢が過った。