雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
鏡に映る自分の右手に目を置く。
一体、誰に手を引かれていたのだろう。
それだけでどうして、あんなに嬉しく感じていたのだろう。
考えてみてもさっぱり分からない。
「思葉」
声をかけられ、右手を握りこんで振り返る。
けれど玖皎は呼んでおきながら何も言わなかった。
もぞりと口を動かし、本棚に並ぶ文庫本の背をすっと撫でている。
意味のない、というより、間をごまかそうとする仕草に見えた。
「なに?」
促すつもりで尋ねる。
「いや……少し訊きたいことがあってだな……。
こういうことを訊くのは野暮というものだが、その、どうにも気になってしまったというか」
「だから何よ、はっきりしないわね、らしくもない」
「む、なら単刀直入に訊かせてもらうが」
「うん」
「ユキヤくん、というのは誰だ?」
櫛を落としそうになっていた。
手の中に留めようととっさに握り直す。
はずみで身体の奥が震え、カッと火照りが生じた。
「え、え?は?玖皎、なんで急にそんなこと……行哉くんは來世のお兄ちゃんだけど。
あれっ?あたし、玖皎に行哉くんのこと」
跳ね上がった鼓動に合わせて焦ってしまう。
だが、思葉よりも慌てた様子で玖皎がさえぎった。