雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕





「ああ、いや、それならいい。いや良くはないが……ああ、そういえばおまえと遠出をした帰りに会っていたな」


「玖皎」


「そうか、あの幼馴染の兄貴か。弟とは見た目も中身もあまり似ておらなんだが」


「玖皎、なんでいきなり行哉くんのことを訊くの?」



少し声音をきつくして、ごまかすなという意味を込めて問う。


すると玖皎が頭を掻きながら横を向き、わずかに唇を尖らせた。


観念した様子で白状する。



「呼んでいたんだよ、寝言で」


「へ?」


「寝言で『ユキヤくん』と呟いていたんだよ、おまえ。


しかも一度でなく何度も、丑三つ時過ぎから明け方までぽつぽつとな。


気にするなというほうが無理な話だろう?」



思葉は櫛を戻そうと玖皎に背を向ける。


どちらかといえば、後者の動作をするために前者の行動をとったような感じだ。


今の顔を玖皎に見られたくない、絶対に赤くなっている。


でもここで黙り込むのもおかしい気がしたので、もう一度荷物を確認しながらなんともない風を装って言った。



「……小さいころの夢を見ていたから、多分そのせいかな、小学生のころはよく一緒に遊んでいたし。


だけど來世はそんなに夢に出てきてなかったから、余計に呼んでいたのかもね」



嘘ではない、初めて木登りに成功した夢を見たのは事実だ。


言い方も不自然でなかったと思う。


玖皎が「ふぅん」と気のない返事をするだけでしつこく言及してはこなかったので、こっそり安心した。




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