雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕









極力匂い袋は手放さないこと。


矢田とはできるだけ距離を取り、関わらないようにすること。


念のため甘茶は小まめに飲んでおくこと。


約束させられた3つのことを頭の中で繰り返しながら、思葉は通学路を歩いた。


家を出る際にまた永近に念を押すように言われ、それだけ彼に心配をかけさせてしまったのかと申し訳なく思った。


轉伏にも厄介事に巻き込まれやすいと言われたから、今日ぐらいは慎重に行動しようと自分に言い聞かせる。


決して普段から軽率な行為はとっていないつもりだが、その結果が昨日の一騒ぎを招いたことであるから何も言い返せない。



(矢田さんには近づかない、というか見ないようにする、話しかけられないようにする。


今日は体育ないから匂い袋は外さない。


よし、大丈夫、大丈夫……)



ところが、ホームルームの開始時間になっても矢田の席はからっぽであった。


瀬尾の話だと、体調不良で欠席らしい。


警戒していた相手がいないと安心する一方で、なんだか負けたような気になった。


とりあえず、今日は奇妙なこともなく穏やかに過ごせるだろう。


うっすらと残っているピンク色の傷跡をなでながら、思葉はほっと息を吐いた。


ようやく、まともな学校生活が戻ってきた。


まだ始まって2日しか経過していないのだが、ずいぶんと長い時間が経ったように感じる。


起こった事が事であったから、余計に長く感じるのだろうか。




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