雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「それじゃあ、時間もあまりないから早速本題に入らせてもらうけど。
皆藤さんのお家は、骨董品店を営んでいるのよね?」
「そうだよ」
「なら、この学校にいる生徒の誰より古美術には詳しいと思っていいのかしら?
辻森くんが骨董品関連であなたに助けを求めているところ、何度か見たことがあるわ」
思葉は苦く笑いながら、心の中で來世を思いきり蹴飛ばしてやった。
富美子からの電話を受け取るたびに來世が必要以上に大声で思葉を呼ぶせいで、話したことのない同級生たちにまでそういう先入観を持たれるようになってしまっているのだ。
迷惑なことこのうえない。
「うーん、そういうわけじゃないけど、でも、他の人たちよりは見慣れている自覚はあるかな」
「謙遜しなくていいのよ、骨董商や古美術商を論破して追い払えるなんて立派なことよ」
「……松山さん、そういう話はどこから聞いてくるの?」
「あら、それなりに噂になっているのよ、あなた。
特にアンティークな物に造詣の深い人たちの間では有名ね、知らなかった?
わたしたちオカルト研究部でも、話の中で時々あなたの名前が出るわ」
嬉しいような悲しいような、どう反応すればよいか分からず思葉は力なく笑って頬をかいた。
思葉はあまり目立ちたくない性分だ、突出してしまうことなく、その他大勢の中に溶け込んでいたい。
しかもオカルト研究部で名前が出されているということは、と考えたところで、松山の相談内容が大まかに予想できた。
いくらか声を落とした松山が口にした言葉は、明らかに予想に関連したものだった。
「それで、骨董品を扱っているってことは、現代科学では証明することのできない事象に遭遇したこともあるんじゃないのかしら?」
質問口調ではあるが、どことなく確信を持っているような言い方だった。
どう返答すればよいか迷い、結局、思葉はまた曖昧に頷いた。
「う、うーん、まぁ感じる程度だったら……」
うまい嘘がつけない自分がとても嫌になる。
ここでも口下手が足を引っ張っていた。