雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「ちょっと説明が長くなっちゃったわね。
皆藤さん、わたしがあなたにお願いしたいのはね、ぜひ唐津先輩に会ってもらいたいの。
唐津先輩に会って、この奇妙な現象の原因が本当に鏡なのか、一緒に突き止めてもらいたいの」
「それって、すぐの話?」
「うん、できれば明日の放課後にでも」
「あ、明日?」
びっくりする思葉の手を取って、松山は切羽詰まった表情で言った。
「お願い、こんなこと皆藤さんにしか相談できないし、皆藤さん以外の人では絶対に頼りにならないわ。
他の部員はみんなこの件には無頓着だし、そもそも興味のある畑が違うから全然戦力になってくれなくて……
迷惑な頼み事をしているのはよくわかっているけど、それでも力を貸してほしいの」
ぎゅっと力強く手を握られる。
松山は本当に弱り果てているらしかった。
正直に言うと、思葉はこの件にはあまり関わりたくない。
まだ薄く痕の残る左手のひらが微かにうずく。
今の松山の話だと、これには矢田も少なからず関係しているのだ、また昨日のようなことが起こるのではと考えると怖い。
薄情だけれど断ってしまおうか。
ちらりとそう考えたとき、昨日の帰り道での実央とのやりとりを思い出した。
断ろうと開きかけた唇を丸め、思葉は改めて松山の目を見直した。
「……分かった、あたしなんかで良ければ協力するよ。
でも、お祓いとか、そういった霊的なことは全然できないから、あまり期待しないで欲しいかな」
「ううん、協力してもらえるだけでも心強いわ。
部員でもないあなたを巻き込んでしまって本当にごめんなさい、でも、よろしくね」
松山が心から安心したみたいに表情をほころばせる。
握られたままの手を上下に何度も揺すられて思葉は早くも後悔しそうになったが、弱気になりかける自分を蹴飛ばした。
もしもこの一連に付喪神が関わっているのだとしたら、見て見ぬふりをしてはいられない。
矢田たちだけでなく、その付喪神が囚われているものを解いて自由にしてやりたいと思ったのだ。
彼らは理由もなく人に危害を与えたり襲ったりしない存在だから。
(玖皎やおじいちゃんに怒られちゃうかなぁ……)
心配症の2人を想像して苦笑しながら、思葉は松山と共に昇降口へ移動する。
その途中で轉伏の言葉を思い出し、確かに受難体質かもしれないとこっそりため息をついた。