雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
心境の変化が表情に出ていたのだろう、矢田がにっこり笑って優しく話しかけた。
「ねえ、皆藤さん、今から時間あるかしら?」
「あるけど……どうして?」
「せっかくだから一つ護身に効くいいおまじないを教えてあげる。
これからわたしの家に来ない?
わたしの家はこの神社の近所にあるのよ」
「え、そうなの?」
思葉はきょとんとした。
この神社の近くとなれば思葉や來世の家とも近い。
記憶が正しければ、矢田とは小学校も中学校も別だった。
「皆藤さんとは小学校も中学校も一緒じゃなかったね、学区の関係かしら」
「そうかもしれないね。おうち、すぐ近くなんだ、びっくりしたよ」
「どうかしら?家にある護身の術の資料、見せてあげるよ」
矢田は目を細めて笑いかけた。
「強い護身術を一つでも知っているのとそうでないのとは大違いだよ。
知ってさえいればどんな心霊も、あの日本刀と同じような心持ちで接することができるよ。
……彼とはずいぶんと仲良くしていたみたいね」
思葉は目を見開いて、自分より少しだけ背の高い矢田を見上げた。
後頭部を鈍器で殴られたような思い衝撃が走り、心臓を鷲掴まれたような感触が絡み付いてくる。
全身に警鐘が鳴り響く。
(おかしい、これは絶対にあり得ない)
思葉は数歩後ずさって、笑みを絶やさない矢田を強く睨み付けた。
矢田がこてりと不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの、皆藤さん。そんなに怖い顔をして」
「近寄らないで、どうして矢田さんが日本刀のことを知っているの?」
「……骨董品店なら、日本刀の1本や2本、あると思っても不思議なことではないでしょ?」