雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
この阿毘はどうして、口調も変えずに恐ろしい内容をあっさり言えるのだろうか。
思葉は少しげんなりとしつつお腹をさすった。
付喪神によって刺し貫かれた腹部の傷は、思葉の肉体には反映していない。
だが、ああして思葉の意識を削り落として、肉体から乖離させようと目論んでいたのだということは、轉伏の説明で察することができた。
精神世界での死は正気の喪失であり、それは時に肉体との繋がりを失う場合もある。
あのまま、玖皎の真名を思い出さずに気絶していたら……そう考えると、背筋にぞくりと寒気が走った。
「ぼくたちも、本当はもっと早くに助けたかったさ。
けど、君の中に結界が張られてしまっていてね、それに邪魔されて君の魂までたどり着けなかったんだよ。
でもさ、君だって、こいつの真名を知っているのならもっと早く呼べばよかったのに、もしかして忘れてた?
まぁ土壇場で叫んでくれたから、結界の中から君の魂を引っ張り出せたけど」
玖皎に顎をしゃくりながら言っている轉伏の意味が分からず、思葉は首を傾げた。
檆葉丸と呼んだことであの場所から脱出できたのだということは分かるが、なぜそうなったかは分からない。
何度も何度も玖皎の名前を呼んでも、彼には届かなかったのに。
「……すまん、思葉」
すると、玖皎が低い声で小さく言った。
いくらかバツの悪そうな表情で唇を丸めている。
ますます首を傾げる思葉の後ろで、意味を理解したのか珒砂が身じろぎした。
面越しから、あからさまに不機嫌さが伝わってくる。
「……おい妖刀、まさかとは思うがあんた」
「言ってないみたいだね、この反応」
すっぱり言い切った轉伏の声に玖皎がぐっと喉を鳴らす。
思葉は両方をキョロキョロ見て、玖皎の水干を引っ張り説明を求めた。