雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕





同じ足で同じ小石を蹴り続けて家まで帰れると志望校に合格できる。


なんて噂がセンター試験を目前に控えた去年の3年生の間で流行っていたことを思い出した。



「なあなあ、思葉はなんで行哉と同じ電車に乗ってたんだ?


どっか出かけてたのか?」



いきなり、來世が何の脈絡もない質問を思葉に発した。


こいつは本当に、思ったことや疑問に浮かんだことをすぐに口に出す。


もう慣れっこなので面食らいはしない。



「うん、おじいちゃんにお使い頼まれてね、高頭(たかず)まで行ってきたところ。


骨董品の受け取りだから本当はおじいちゃんが行くべきだったんだけど、急に予定が合わなくなっちゃってね。


それであたしが代わりに行ってきたんだ」


「人見知りが他県の知らない他人のところへお出かけか。


だいぶ出世したなー、ちゃんとしゃべれたのか?」


「当り前よ、小学生じゃないんだから」


「どうだかな、店番してるとき男性客に話しかけられたら表情引きつらせてるくせに」


「残念でした、今日の相手はおばあさんだったよ」



つまんねえ、とぼやく來世のお尻に向かって思葉はハンドバッグを振る。


必要最低限の荷物しか入っていないハンドバッグは通学鞄に比べてとても軽い。


手ごたえの感触でさほど痛くないはずなのだが、來世はまた大げさに顔をしかめた。




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