雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
行哉の足が止まった。
ますます目を見開き、顎を引いて低く呟くように尋ねる。
「……マジなのか、それ?」
「マジマジ、大マジ、おれ見せてもらったんだぜ。
刀のこととかさっぱりだけど、すげえよなー、1000年前に作られた刀なんてさ。
よくきれいな状態で残ってたよ。
なあなあ、もう一回よく見せてくんねえ?」
來世がおどけて手を伸ばしてくる。
思葉は一歩身を引き、伸びてきた手のひらを叩いた。
「いやよ、見世物じゃないんだから」
「なんだよー、ケチ臭いこと言うなって。
いいじゃん、少しだけ、な?」
「こんな街中で見せるわけないでしょ。
そんなにあたしに警察に捕まって欲しいの?」
腕を伸ばして來世の鼻をぎゅっとつまんでやる。
たとえこの場じゃなかったとしても、進んで玖皎を見せようとは思わない。
玖皎は誰かに見せびらかすような美術刀ではないのだ。
來世は「ちぇっ」と不満そうにしつつも、おとなしく引き下がった。
頭の後ろで両腕を組む。
「じゃあまた今度見せてくれよ。
生の日本刀なんてそう見れないしさ」
「気が向いたらね」
「ったく、そんなんだからいつまで経っても彼氏ができねーんだよ」
「大きなお世話よ、ばか。
あたしはあんたと違って節操持ってんのよ」