雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕





行哉の足が止まった。


ますます目を見開き、顎を引いて低く呟くように尋ねる。



「……マジなのか、それ?」


「マジマジ、大マジ、おれ見せてもらったんだぜ。


刀のこととかさっぱりだけど、すげえよなー、1000年前に作られた刀なんてさ。


よくきれいな状態で残ってたよ。


なあなあ、もう一回よく見せてくんねえ?」



來世がおどけて手を伸ばしてくる。


思葉は一歩身を引き、伸びてきた手のひらを叩いた。



「いやよ、見世物じゃないんだから」


「なんだよー、ケチ臭いこと言うなって。


いいじゃん、少しだけ、な?」


「こんな街中で見せるわけないでしょ。


そんなにあたしに警察に捕まって欲しいの?」



腕を伸ばして來世の鼻をぎゅっとつまんでやる。


たとえこの場じゃなかったとしても、進んで玖皎を見せようとは思わない。


玖皎は誰かに見せびらかすような美術刀ではないのだ。


來世は「ちぇっ」と不満そうにしつつも、おとなしく引き下がった。


頭の後ろで両腕を組む。



「じゃあまた今度見せてくれよ。


生の日本刀なんてそう見れないしさ」


「気が向いたらね」


「ったく、そんなんだからいつまで経っても彼氏ができねーんだよ」


「大きなお世話よ、ばか。


あたしはあんたと違って節操持ってんのよ」




< 31 / 178 >

この作品をシェア

pagetop