雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「よく言うぜ、好きなやつできたことねえくせに」
「年中お花畑状態の方がおかしいわよ。
フラレまくってるのも、つまりはそういうことでしょ」
「おまえ人の傷口にさらっと……」
先に喧嘩を売ってきたのは來世の方だ。
謝ったり罪悪感を感じたりしてやる筋合いは髪の毛一本ほどもない。
思葉はいーっと歯を向けてぷいっと横を向いた。
そこへ行哉が声を掛けてくる。
「おまえの太刀なら、なんでわざわざ持ち歩いているんだ?」
当然の質問である。
正直に話すわけにもいかず、思葉はできるだけ自然に聞こえるように答えた。
嘘をつくのは忍びないが仕方ない。
「品物の受け取りのついでに刀剣のお店に行ってきたんだ。
高頭って刀鍛冶が盛んで有名なところでしょ。
今でも鍛冶屋さんは結構残っているし、その名残で刀剣を取り扱っているお店がたくさんあるから、ちょっと勉強しにね。
青江さんのところもいいけど、別のお店を見てみるのも悪くないかなーって。
ついでに刀装具で何か買い換えようかなって思って、この太刀も連れて行ったんだよ」
すべて嘘ではない。
実際、依頼人との約束の時間までの暇つぶしに刀剣店を訪れ、飾られていた刀を眺めていた。
刀装具を見たいとねだる玖皎と一緒に鍔を物色し、どれも高校生にしては高額だったので購入を諦めたのだ。
「ふうん、だから持っていたのか、なるほどな」
行哉が軽く頷いた。
ひとまずは納得してくれたらしい。