雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「あ、そうだ、ついでに満刀根のじいちゃんに会ってこいよ。
じいちゃん行哉のこと気に入ってるし、喜んでくれるんじゃね?」
「……そうだな、おれも久しぶりに、店に行きたい」
そう言われると、甘えるしかない。
兄の荷物を預かった來世と別れ、思葉は行哉と並んで歩き出した。
行哉は優しい。
何も言わずに車道側に立ち、小柄な思葉の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
こうして肩を並べて歩くのはいつ以来だろう。
行哉が高校生になってからは、会うときは大抵來世も一緒に居た。
そう考えると小学校6年生以来だろうか。
「なんか、ごめんね?」
「いや、いい。気にするな」
「來世も何言ってんだろうね、夜道って意味分かんないし」
腕時計を確認するとまだ5時半過ぎ、夕方だ。
太陽はとっくに沈んでいるけれど十分明るい、夜道なんてどこにもないし、家までに危ない道を通ることもない。
「……用心に越したことはないだろ。
季節の変わり目の夕方は、よく不審者がうろついてるって言うから」
「まぁ確かにこの辺露出狂とかいるみたいだけど……でも、長旅してきて疲れてる人に押し付けるかなあ。
兄弟とはいえ無神経すぎるでしょ、あのばか」
「別に疲れていない。
むしろ、ずっと座りっぱなしだったから動いている方がいい」
「ふうん、そっか」