雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
前から自転車に跨った中学生の集団が来る。
行哉が思葉をかばうように前に出た、自然な動きだった。
広い背中が視界の大部分を占める。
ジャケットの上からでも、余分な脂肪がついていない引き締まっている背筋だと分かる。
男らしくて逞しい。
けれど筋骨隆々というわけではなくて、きれいだという印象を持った。
女の子の柔らかさや豊かさとはまったく異なる、ゼロキロカロリーの堅い線。
行哉が再び隣に並ぶまでの間、思葉は彼の背中に見とれていた。
「……そういえば」
ふいに行哉が低い声を出す。
うっかり聞き落しそうになって、思葉は少しだけ顔を彼の方に近づけた。
「んん?」
「大丈夫だったか?さっきの電車の中」
「大丈夫って……え、何が?」
「急に騒ぎ出したやつがいただろう……おまえのすぐ後ろで」
「見てたの?」
「電車の中であんだけ大声あげてたら、誰だって見る」
(あ、だからあたしに気づいたんだ)
納得しつつ、思葉は行哉に気づかれないように玖皎の鞘尻のあたりを軽く殴った。
刀身を叩かれたわけではないのに、玖皎が「いて」と言う。
「うん、びっくりしたけど、大丈夫だったよ。
別にどっか触られたとか蹴られたとか、そんなこともなかったし」
「……なら、いいけど」