雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
思葉はその手を払い、昨日の帰り道を思い返す。
「えー、そんなこと言われても、別に普通の話しかしてないよ?」
「おまえはそうかもしれないけど、うっかりあいつの地雷を踏み抜いた可能性だってあるだろ?
あいつの地雷源は分かりにくいけど、その反応は分かりやすいからな」
そう言われると、心当たりがまったくないわけではない。
家に到着するや否や、行哉に突き返される形で荷物を渡され、ちゃんと挨拶もできないまま帰られてしまった。
思葉が彼の地雷を踏んだサインがあったとしたら、それ以外に考えられないだろう。
しかし、やはりその地雷にはピンとこない。
そのことを來世に話すと、やっぱりな、という返答を受けた。
「ほら、やっぱあったじゃねーかよ。その直前にどんな話してたんだ?
あいつは無愛想だけどそこまで沸点低くないぜ」
「知ってるわよ、むしろ來世の方が低いよね」
「なのに離れたってことはよっぽどのことを言ったんだよ、おまえは。
無自覚って、どんだけ性質悪いんだよ」
「そんなこと言われても……えっと確か、あんたの夜道発言から不審者が出やすいって話になって。
それから、一緒に乗ってた電車の中で急に騒ぎ出した人の話になって」
「待て待て、なんだそりゃ」
「あたしにも行哉くんにも被害はなかったから大丈夫だよ。
そんで來世に彼女ができない話になって……そうそう、行哉くんに彼女できたのって聞いたら、急に帰っちゃったんだよね。
まあ、そのときに家に着いたんだけど」