雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
軽い調子で謝った武川実央は思葉の背中から離れると、思葉の頭をぽんぽん叩いた。
思葉と違いおしゃれやかわいくすることに余念のない実央は、最近ハマっているという編みこみをばっちり決めている。
躍動的な彼女のボブヘアによく似合っていた。
「とりあえず束ねてみた」という感じが払拭できない思葉とは大違いである。
思葉は何も言わずに來世を指差した。
すると実央はそちらに視線を投げて納得したような声音で頷く。
「あー、なるほどね。辻森にじゃれつかれたのか」
「おい武川、人を犬とか猫みたいな扱いをするのはよくないぞ」
「何言ってんのよ、あんたなんて遊び足りない子犬と似たようなもんじゃない」
「実央さん、子犬と一緒にしたらダメだよ。
來世なんかと同類にされる子犬が可哀想だから」
「あ、そうだったね」
「うわー、新学期早々このバディ絶好調に最悪だな」
「えー、だって辻森だし?
あ、綾乃ちゃん見っけ、おはよう」
2年生用の昇降口の前に、腰まで真っ直ぐに伸びた奇麗な髪をもつ友達を見つける。
あれこれヘアアレンジをしなくても絵になる女子は、この学校では彼女しかいないだろう。
硝子戸の前には人だかりができていて、皆、そこに貼られている新しいクラス名簿から自分の名前を探していた。