雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
自分より身長の低い人にこれをされると首が絞まりやすいらしく(思葉には自分より低い人が周囲に居ないのでピンとこないが)、來世がぐえっと声をあげて腕をすんなり離した。
ようやく解放された思葉はシュシュを外し、手櫛でしっちゃかめっちゃかになった髪を整える。
「ああ、もう、最悪。またこんなのと1年間同じクラスとか……」
「まあまあ、思葉ちゃん。険悪よりはずっといいよ、ポジティブに考えよう、ね?」
「いいこと言うなあ、霧崎!おれの味方は霧崎だけだよ」
「ちょっと辻森、綾乃ちゃんに近寄らないでよ。
あんたのせいで綾乃ちゃんの純真無垢が穢れたらどう責任とってくれんの」
「おまえ、おれを何だと思ってんだよ」
危うく実央に蹴飛ばされそうになり、來世が素早く下駄箱の方へ逃げる。
実央はすかさず追いかけ、楽しそうに笑いながら綾乃も中に入った。
ため息を吐き出した思葉も、遅れてそれに続こうと一歩足を踏み出す。
――ぞくり。
ふいに、うなじのあたりがうそ寒くなった。
そこを中心に背筋が粟立つ。
一瞬だけ視界が揺れる、誰かに見られている感覚をおぼえる。