雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
(えっ?)
思葉は足を止めて振り返った。
そこにいるのは同じ学年の生徒たち、誰かと視線が交わることはない。
誰も思葉に目を向けていなかった。
けれども確かに、誰かの視線を感じた。
左胸が再び、今度は違う理由で疼き始める。
言葉に表せない嫌な感覚が、血流に乗って体内を蠢く。
口の中が乾く。
なぜか呼吸が止まりそうになった。
「思葉ちゃーん、教室行こー?」
後ろから実央の明るい声が飛んでくる。
そのおかげで、息を吸い込むことができた。
一拍置いて返事をする。
「うっ、うん、今行く」
(気のせい、だよね……うん、きっと気のせいだよ)
思葉は軽くかぶりを振って下駄箱に向かう。
しかし、いくら自分に言い聞かせても、首の後ろにまとわりつく不快感は完全にはとれなかった。
來世たちに追いつき、1年生のときと変わらないやりとりをしている間も、誰かに見られている気がしていた。
――何か、よくないことが起きるかもしれない。
そんな根拠のない漠然とした不安が、思葉の胸に薄い靄をかけた。