雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
去年の1組から4組までの英語を担当していたのだが、思葉は5組だったので一度も教わったことがなくそこまで記憶に残っていない。
(こんな先生いたんだ)
と思ってしまったのが実のところだ。
丸まった背中のせいで自信なさげな印象が強いが、悪い先生ではなさそうな雰囲気にほっとした。
この1年を過ごすのに担任の良し悪しはとても重要だ、ひとまず第一関門は突破である。
静かではあるが何となく落ち着きのない室内で、フルネームの確認を兼ねた健康観察がスタートする。
時折、特に下の名前の読み間違いを訂正する声とそれによって起こる小さな笑い声が起きつつも、作業は割とスムーズに進んだ。
「えー、皆藤……ええと」
「ことは、です」
「皆藤思葉さん、だね」
「はい」
一発で正しく読まれないことはもう自覚している。
学年の先生も約半数が変わった。
またしばらくの間、色んな人から下の名前の読み方を聞かれるのかとぼんやり考えた。
名前の確認作業が止まったのは、ちょうどそのときだった。