雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
「矢田朋美(やた ともみ)さん」
瀬尾が正しく名前を呼んだにも関わらず、返事をしない生徒がいたのだ。
もう一度瀬尾が呼んでも当人からの反応は何もない。
教室内の空気がわずかに変わり、視線が呼ばれた生徒に集中した。
思葉もそちらへ顔を向ける。
矢田朋美は窓側の列の後ろから3番目の席に座っていた。
直接の関わりはないけれど、ミディアムヘアを上下4ヵ所に分けてまとめる独特なヘアスタイルが印象的で知ってはいた。
確かオカルト研究部、通称オカ研に所属していた気がする。
矢田は両手を膝の上に置き、自分の机の木目に視線を落としている。
名前を呼び間違えているわけではなさそうであるし、そもそも間違っていたら訂正するはずだ。
瀬尾が戸惑った様子でまた名前を呼ぶ。
「あの、矢田さん?名前間違っていたかな?」
担任が教壇を降り、列の前まで移動しても、やはり矢田は何も反応をしない。
「矢田さん、瀬尾先生呼んでるよ?
名前間違ってないし、返事ぐらいしようよ」