雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
そこから残りの女子の確認を済ませ、学級役員を決める流れになった。
委員長・副委員長・書記が決定し、清掃分担と教室運営の係決めに移ったころには、教室の空気は矢田の一件の前に戻っていた。
ノリのいい生徒が多く、和気藹々とした雰囲気で進行していく。
思葉もリラックスした気分で、仕事量の少ない楽な係をかけた白熱するジャンケンを見ていたが、やはり前よりも横のほうが気になる。
ちらりと矢田の方を盗み見てみると、彼女はつまらなさそうに手鏡を眺めていた。
あの様子だけを見れば、よくいるクラス運営に消極的な生徒なのではあるが。
そんなことを考えていると、隣の列の男子の話し声が聞こえてきた。
「なあなあ、さっきの矢田のアレ、びびったよな」
「矢田の男嫌いの激しさは噂で知ってたけどさ、あんなに酷かったのか?」
「いや……おれ同じクラスで、去年の担任は沢村先生だったけど、普通にやり取りしてたぞ?
積極的に話しに行こうとはしなかったけどな」
「そうなんだ、春休みの間に何があったんだろうな、あいつ」
「さあ。あ、そうそう、春休みといえばさ……」
彼らの話が脱線したところで、思葉はもう一度矢田の方へ視線を投げる。
瞬間、すうっと。
またうなじのあたりに寒気を感じた。
思葉はそこをさすって前を向く。
なぜだか、それ以上長く矢田を見つめていてはいけないような気がしたのだ。
『おまえはかなり感化されやすい体質だ。
修行も何もしていないのにそこまで感じ取りやすいのには驚いたが……とにかく、よくないと直感したらそれ以上それには意識を向けない方がいい。
うっかり誤れば意識を乗っ取られて、自我を失ってしまいかねないからな。
それだけは流石のおれにもどうにもできん、用心しろ』
以前玖皎から受けた助言を思い出す。
それに従い、それからは矢田の方に顔を向けないようにして、言い知れない不安にひたすら耐えた。
ロングホームルームが終了するころには、腋に濡れるほど汗をかいていた。