雲外に沈む 妖刀奇譚 第弐幕
――そのとき、突然誰かの手が肩に置かれた。
当然、室内には誰もいないし、誰かが入ってきた気配も音もしなかった。
人間はあまりに驚きすぎると悲鳴すらあげられないものである。
ひゅっと息を吸いこみ、飛び跳ねた心臓と一緒に肩を竦め、思葉は慌てて振り返った。
「っだだ、誰!?」
尋ねながら肩を押さえて後ずさる。
そこには背の高い人影があった。
身体の線の感じから、恐らく男性だろう。
しかし制服姿でも教師らしい格好でもなく、和をベースに洋のアクセントを取り入れた、宵空色の服に身を包んでいる。
顔を悲しそうな表情の黄色い鬼の面で隠し、腰には一振りの打刀を差していた。
予想外の出来事のうえに想定外の出で立ちを目の当たりにして、思葉の思考回路はしばし停止した。
だが、それはやたらと元気な声によって解除された。
「おまえが皆藤思葉ってやつか?」
背丈に反して少し高めの幼さを含む声だった。
いきなり名前を言い当てられて、思葉の戸惑いはますます大きくなる。
「そう、だけど……あの、あなたは」
「おっ、おまえ、おれが観えるのか?声も聴こえんのか?」
「う、うん……」